音楽エッセイ|ガブリエル・フォーレ

ガブリエル・ユルバン・フォーレ(Gabriel Urbain Fauré, 1845年5月12日 – 1924年11月4日,フランス)

レクイエム」とは、日本語では「鎮魂ミサ曲」と訳され、カトリック教会における死者のためのミサに用いる聖歌のことで、これまで多くの作曲家が作品を残しています。

中でも、モーツアルトヴェルディフォーレの作品が三大レクイエムと言われていますが、私は断然フォーレの「レクイエムニ短調 OP.48」が好きです。

1905年、60歳のフォーレ(著作権者:Paul Nadar,ライセンス:CC by-sa 3.0,<Wikipedia>)

この曲は、フォーレが既に亡くなった父母の思い出のために作曲したと言われ、全体に静寂に満ちた息の長いフレーズが特徴で、天上の晴れやかさと楽園のやすらぎが曲全体を包み、他の作曲者の「レクイエム」にみられる死に対する恐怖感の表現はなく、まるで子守歌を聴いているようです。

特に、第3曲、第4曲のソプラノ独唱は、天使に付き添われて亡き人と天上の世界を一緒に散歩しているような気持ちにさせてくれます。

フォーレはレクイエム以外には、100曲に近い、歌曲、ピアノ曲といった小品が有名なので「サロン作曲家」と過小評価されたりしたこともありましたが、オペラ、室内楽曲でも優れた作品を残しており、パリ音楽院の院長も務めフランス音楽の確立者として今では評価されています。

特に、室内楽曲は数こそそれほど多くないものの(10曲)、若い時から最晩年まで生涯にわたって作曲され、私は名作の宝庫と思っています。

そもそも、フォーレが有望な作曲家として認められるきっかけとなったのも、31歳の時に作曲した「ヴァイオリンソナタ第1番イ長調 OP.13」ですし、各2曲ずつある「ピアノ四重奏曲」、「ピアノ五重奏曲」は、ドイツ、オーストリアのものとは異なるフォーレ独特の調性感、音響感というものが聴こえ、きっと一度聴くと虜になります。

晩年に至っても室内楽に多大な感心を寄せていたフォーレですが、1903年頃(58歳)から聴覚障害(重篤な難聴と言われています)が現れ始め、障害が更に進行し、1920年頃(75歳)には聴覚がほとんど失われたと言われています。しかしそれでもベートーヴェンと同様作曲活動を続け、1923年には「ピアノ三重奏曲ニ短調 OP.120」、死亡する年の1924年にフォーレ最後の作品として「弦楽四重奏曲ホ短調 OP.121」を残しました。どちらの曲も頭の中でイメージされた音を頼りに作曲された作品にもかかわらず、深い諦念の響きが迫り、現代音楽を先取りしたような素晴らしい作品です。

なお、フォーレが世を去った時、葬儀が行われたマドレーヌ寺院で鳴り響いたのは、彼自身の「レクイエム」だったそうです。

マドレーヌ寺院(フランス・パリ)


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