1990年代、「モーツァルトを聴くと頭が良くなることが科学的に証明された」というニュースが世界的に流され、日本でもこの「モーツァルト効果(Mozart Effect)」を謳った、モーツァルトのCDやモーツァルト関連の書籍等が一大ブームとなりました。今でも「モーツァルトで胎教」や「モーツァルトで癒し」といった効果を前面に出した本を書店等で見かけることがありますね。
そもそも「モーツァルト効果」の根拠になったのは、1993年に『ネイチャー』に掲載された一つの論文にあります。
カルフォルニア大学の神経生物学者F・ラウシャーの研究チームが発表したこの論文の内容は以下のようなものでした。
学生を3つのグループに分け、
第1のグループには、モーツァルトの「2台のピアノためのソナタ二長調K448」を聴かせ、
第2のグループには、一般的なリラクゼーションテープを聴かせ、
第3のグループには何も聴かせずに、
その後3つのグループに空間把握力のテストを行いました。
その結果、統計学的に有意な差で、モーツァルトを聴いたグループは他の2つのグループより、IQに換算して8~9ポイント高くなっていたというものです。
果たして、これで「モーツァルトを聴くと頭が良くなる」と科学的に証明されたと言えるでしょうか?
一番大きな問題は、この効果がモーツァルトの音楽だけに因るものかどうかが全く証明されていないということです。例えば、採用した音楽がバッハのものだったらどうなったでしょう?バッハの方が高い効果があったかもしれません。
あるいは、芸術的な絵を見せたり、感動的な話を聞かせたりした時にも、そうでない場合に比べてIQが高くなるかもしれません。つまり、これがモーツァルトの音楽特有の効果として断定するには、この論文だけでは不十分と思えます。
しかし実際には、これらの研究結果は拡大解釈され、モーツァルトの楽曲を聞くと心身の健康や創造性が向上し、さらにはエイズや糖尿病、各種アレルギーにも効果があるとまで謳われました。
当時のマスコミや音楽業界の人たちは(おそらく不十分とわかっていながら)クラシック音楽界のスーパースター・モーツァルトの、話題作り、商品販促に利用したとも考えられます。
先の論文発表後も多くの研究者が検証実験を行い、様々な結果が報告されています。
しかし、とうとう21世紀に入ってドイツ政府(ドイツ研究省報告)は、「モーツァルトに限らず、好きな音楽を受動的に聴いているだけでは知能は発達しない」と「モーツァルト効果」を否定しました。
その理由を、研究結果に再現性がないこと、効果が20分しか持続せず一時的な効果しか確認できないこと、さらにその効果でさえモーツァルトの音楽に特有なものでなく被験者が好むタイプの音楽の鑑賞や物語の読み聞かせによっても同様な効果が確認されていること、としています。
それでも、私達にとって、それでモーツァルトの価値が損なわれるわけでもなく、そもそも私達は、頭が良くなるためにモーツァルトを聴いているわけではないのですから、何も影響を受けませんよね。
むしろ、同じドイツ研究省の報告に、
「しかし、音楽のレッスンが(特に幼児の)IQの発達を促すとする主張については否定されない。いくつかの大規模な研究でIQに対する小さいながらも有意な効果が、何年にもわたって継続するということが示されていたことから、判断を留保する。」
とあることが注目されます。
やはり、単に聴くだけでなく、体を動かして楽器を弾いたり楽譜を読んだりすることで自然に集中力、注意力、自制心が養われる音楽レッスンは、IQに対しては良い影響を与えるようですから、早いうちからやり始めるのが良いようですね。