こんにちは。木山音楽教室ピアノ講師の滝まりなです。
前回に続き、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハそしてフンメルの本から見る装飾音の弾き方についてです。今回は「トリル(トリラー)」と「ターン(二重打音)」について見ていきます。
トリルは、一般的には音符の上にギザギザの波線で書かれる記号で、装飾される音と、その全音または半音高い音(補助音)とを素早く交代させて演奏します。
カール・フィリップは、トリル(トリラー)の種類を4つに分類しています。
①標準トリラー
必ず補助音の方から演奏します。後打音という下から上に進む2つの小音符がついて、さらにトリルに生気を与える場合もあります。
②下からのトリラー
③上からのトリラー
2つとも多くの音符を含むので長い音符に付けられ、後打音をもつ場合もあります。
④半トリラー(プラルトリラー)
ゆっくり弾いてはならず、プラッレン(prallen:激突)させるように、補助音は弾くように演奏します。後打音は持ちません。
ところで、トリルの弾き方でよく問題になるのが、記号のついた音から始めるのか、補助音(上の音)から始めるのかということです。
カール・フィリップは標準トリラーを「必ず補助音から」弾くといっていますが、フンメルはこれを「古い習慣」であるとして「記号のついた音から」で、特別な注意がない限り補助音から始めてはならないと言っています。
その理由として、
・トリルの後にくる終止の音符よりも補助音が目立ってはいけない(しかし音の重みトリルの方にないといけない)
・運指の点で弾きやすい
などの点を挙げています。
フンメルはトリルを、後打音を伴う完全なトリル、後打音を伴わない不完全なトリルの2つに分類しています。
カール・フィリップ、フンメルともに共通して述べているのは、トリルの演奏の難しさです。
カール・フィリップは「きわめて難しい装飾音。若いときから熱心に練習しなければならない」、フンメルも「トリルは装飾音の中で最も難しい。早い時期から練習しておくと良い」と、2人の意見が一致していました。
とくにフンメルは、モーツァルトから直々に教わったトリルの練習方法を紹介しています。これはハノン46番「トリル」の最後にも載っていますので、トリルをうまく弾きたい皆さんはぜひチャレンジしてみてください。
最後に「ターン」(二重打音)です。
ターンの演奏は、記号が付けられた音と、その上下の補助音からなります。後打音つきのトリルが省略された形ともいえます。
カール・フィリップは、音符の真上につく場合と、音符の間に置かれる場合に分けて述べています。
①音符の真上につくターン
あらゆる音形に見られますが、とくに上行する音形にはよく用いられます。
② 音符の間に置かれるターン
この中でも3通りのパターンがあります。
1)長い音符につく場合
1つ下の音へ下がる音形ではあまり見られません。
2)タイ音符の後につく場合
タイでつながれた1つ目の音が付点音符になり、ターンの最後の音がタイの2つ目の音になるようになっています。
3)付点音符の後につく場合
1つ目の音が付点音符となって表拍の最後に装飾を入れ込んだ後に、裏拍でターンの最終音から2つ目の音へ向けても付点のリズムとなっています。
フンメルはこの①、②の2種類のターンとは別に、
・記号のついた音から始まるターン
・上の補助音から下へ向かうターン
・下の補助音から上へ向かうターン
以上の3つの分類についても記述しています。
この3つ目は稀なパターンですが、転回ターンとも言われることがあり、縦線の入ったターン記号、または逆向きの記号で表されます。
ターンは音形としては非常によく耳慣れた形で、楽譜上では記号よりもむしろ、小音符や普通の大きさの音符として書かれているものを目にする機会が多いかもしれません。
もし記号を発見したら、音符どうしのリズムの分け方は周りの音との関係を見ながら、テンポに合わせていろいろと試行錯誤してみるとよいでしょう。
ここまでが、「前打音」、「トリル」、「ターン」についての2つの本からの記述でした。
同じ作品、楽譜の版によって違った記号で書かれている場合があるので、原典版を確認することも大事です。また同じ記号でも演奏家によっていろいろな弾き方をされている場合もあります。
装飾音の弾き方は演奏する人それぞれの感性に任されています。たくさんの演奏を聴いて感性を養い、これが良い!と思った方法で演奏ができると良いですね♪
滝まりな
(センター南教室・ピアノ/絶対音感/ソルフェージュクラス担当)